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Reviews 2026.04.29 Read 6 min

深夜2時、娘の寝室の隣で打てるキーボードを見つけた。Keychron B1 Pro

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今日のテーマはKeychron B1 Proです。

深夜2時。襖一枚を挟んだ向こうで、2歳半の娘が寝ている。

その家の中で、僕は長いあいだ、キーボードを打つことに対してうっすらと罪悪感を抱えてきた。仕事が乗ってくるのはいつも娘が寝静まったあとで、頭が一番冴える時間と、家の中が一番静かでいてほしい時間が、見事に重なっている。MacBookのキーボードでも、夜中に集中して打っていると、自分でも意外なほど音が響く。コトコト、という音が、襖の隙間から漏れていく気がして、手の動きが鈍る。文章のリズムより先に、音のことを気にしている。これは、書く人間にとってわりと致命的な状態だ。

Keychron B1 Proを買ったのは、その一点を解決したかったからだ。約7,000円。シザースイッチのワイヤレスキーボード。メカニカルではない。ここを最初に強調しておきたいのは、この機種をメカニカルだと思って買うと、確実に肩透かしを食らうからだ。見た目はメカニカル系の薄型キーボードの顔をしているが、中身はMacBookやApple Magic Keyboardと同じシザー機構で、物理特性は完全に静音側に振ってある。コトン、タンタンという、あの気持ちのいい底打ち音は出ない。出ないのが正解の道具だ。

そして実際に1週間使った今、僕の判定は「買う」だ。深夜2時、娘が寝ている襖の向こうで、僕は打鍵音の罪悪感からはっきり解放された。底打ち音がほぼゼロというのは、スペック表の上では地味な一行だが、僕の生活の上ではかなり大きな一行だった。音を気にして指が止まる、という現象がこの1週間で一度も起きていない。書くことだけに集中できる時間が、家族を起こす心配なしに手に入った。7,000円でこれが買えるなら、安い。価格と効能がここまで噛み合う買い物は、そう何度もない。

打鍵感そのものについても書いておく。シザースイッチの感触は、ノートPCのキーボードより少しだけストロークが深くて、コンケーブに削られたキーキャップが指の腹に沿ってくる。MacBookを打っている延長線上に、ほんの少しだけ「打っている実感」が乗る、という言い方が一番近い。劇的に変わるわけではない。でもこの「ほんの少し」が、長時間書く人間にとっては地味に効く。前面9mm、背面14mm、425g。机に置くと、ほとんど影がない。リストレストを外せた。机の景色が一段すっきりしたのは、毎日そこに向かう人間にとって、見た目以上に効く変化だ。35歳を過ぎてから、僕はガジェットを「1日終わったときの体の疲れ」で測るようになった。薄さは、その物差しでちゃんと点を取ってくる。

接続が3系統あるのも、使ってみると効いてくる。Bluetooth 5.2、2.4GHzのUSBドングル、USB-Cの有線。MacでBluetooth、自作機で2.4GHz、別のマシンで有線、という運用が破綻なく回る。特に2.4GHzドングル接続はポーリングレート1,000Hzで、有線とほぼ変わらない応答だ。これは僕にとって、ただのスペックではない。3年前、Keychron K3のBluetoothが不安定で、スリープから復帰した最初の数文字が抜ける、というあの絶望を何度も味わって、僕はそれで一度Keychronから離れた。その人間が今回、1週間使ってラグも文字落ちも一度も体験していない。あのとき僕を泣かせたメーカーが、今回は和解しに来てくれた感覚がある。

正直に弱いところも書く。配列はUS(ANSI)ベースで、JIS版もUSベースだから、左上の記号の位置が日本語の標準キーボードとは違う。「半角/全角」や「変換/無変換」が普段の場所にない、と感じる人はそれなりにいるはずだ。僕はUS配列に慣れているので致命傷ではないが、経理や事務やライティングで、JISのキー位置に手が完全に染み付いている人にとっては、ここは素直に止めておけ、のサインだと思う。リマップである程度は寄せられるが、物理キーの位置そのものは動かせない。最初の数日で違和感が消えないなら、無理に慣れようとせず、JIS版が標準で用意されているHHKB Professional HYBRID Type-SやRealforceを選んだほうが、たぶん幸せになる。キーキャップはABSなので、PBT派の人はテカりが気になるかもしれない。ホットスワップにも対応していない。シザー機構だから、そもそもスイッチを交換するという概念がない。軸を入れ替えて遊びたい人には、この道具は退屈だ。

比較の軸も置いておく。Apple Magic Keyboardが約13,000円から、HHKB Pro HYBRID Type-Sが約36,000円。B1 Proはその半額以下、5分の1以下で、3モード接続も最大1,200時間のバッテリーもZMKベースのフルカスタマイズも前面9mmの薄さも全部入っている。同価格帯で正面からぶつかってくる相手は、正直見当たらない。よく比較に出るLogicool MX KEYS miniは約14,000円だが、これは僕が持っていない。持っていないものの打鍵感を語る資格はないので、ここでは数字を並べるだけにしておく。バックライトはあちらが有利、価格とカスタマイズ性はこちらが有利、それ以上のことは、実機を持っている人の乗り換えレビューを読んでほしい。あえて言えば、所有欲をくすぐるプレミアム側の代替はLofree Flow 2のアルミ筐体だ。差額は1万数千円。その金額を「机の上の景色を毎日眺める対価」として妥当だと思えるなら、そっちを待つのもいい判断だと思う。

だから、誰に向く道具かは、はっきり分かれる。7,000円を捨ててもいいと思える人、深夜や在宅で家族が寝ている横で書く人、手首の疲れを減らしたいロープロ志向の人、そして昔のKeychron K3で泣いて、まだ和解の余地を探している人。ここには、たぶん一番きれいに刺さる。逆に、メカニカルの底打ち音そのものが執筆のリズムを作っている人には、この静かさは物足りないだけだ。ホットスワップで軸を遊びたい人にも向かない。JISのキー位置が絶対に必要な人、Lofreeのアルミの質感を諦めきれない人は、急がず待ったほうがいい。買うも待つも、その人の生活と指のクセで答えが変わる。僕の答えはあくまで僕の深夜の机から出てきたものだ。

ここからが、この記事で一番書きたかったことだ。

Keychronは、いずれ新しいモデルを出してくる。B2 Proなのか、B1 Pro Maxなのか、まったく別系統なのかは分からないが、必ず出る。そのとき僕は、買い増しをしないと決めている。B1 Proに不満があるからではない。むしろ逆で、1週間使ってこれだけ満足しているからこそ、壊れるまで使い切るのが、Keychronに対しても自分に対しても誠実だと思っているからだ。1週間でこの満足度なら、3年使い切らない理由が見当たらない。

新しいモデルを追いかけることが、自分の「欲しいの解像度」をどんどん下げていく、というのを僕は経験で知っている。カメラを何台も持って、レンズを買い増して、結局いつも手に取るのは1台と1本だった。沼の底で何度もそれを確かめてきた。よく使う道具は、いつだって少ない。キーボードでまで同じ轍を踏むつもりはない。次にお金を出すなら、まだ手を出していない、あこがれのHHKB Studioだ。それは決めている。新しいBシリーズではない。

Zen Gadgetでずっと書いている「いいタイミング」というのは、買うタイミングのことだけを指しているわけじゃない。買わないタイミング、買い増ししないタイミングを見極められるかどうか。沼に長くいた人間にとっては、こっちのフィルターのほうがずっと大事だ。新しいものが出るたびに財布を開く前に、今、目の前にある道具で本当に不満が出ているのかを、一度だけ自分に問う。たいていの場合、不満なんてまだ出ていない。出ていないのに買うのは、欲しいからではなく、新しいから、というだけのことが多い。

だから僕は、この7,000円のキーボードを、壊れるまで使う。深夜2時、襖の向こうで娘が眠っている家で、音を気にせず文章だけに集中できるこの時間を、新しいモデルの発表で乱したくない。次のあこがれはちゃんと別に取ってある。それまではこの一台で十分だ。十分だと言い切れること自体が、たぶん、いい買い物をしたということなんだと思う。

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