1万円以下で、罪悪感なく散財していい。Anker FusionとNano 45W、どっちを買うか
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今日のテーマはAnker Power Bank Fusionです。
新幹線でカバンからモバイルバッテリーを取り出した瞬間、残量がゼロになっていて、本気で絶望したことが何度もある。前の夜、ホテルで充電するのを忘れていたのだ。これから二時間、ノートを開きたいのに、手元にあるのは充電し忘れた重たい文鎮だけ。あのときの、自分の段取りの悪さに対する小さな自己嫌悪を、僕はわりと鮮明に覚えている。
Zen Gadgetで「買うな」と書き続けていると、ときどき自分でも窮屈になる瞬間がある。10万円のカメラを諦めろ、5万円の指輪を諦めろ、4万円のヘッドホンを諦めろ。それが本誌の仕事だと思っているし、その考えは今も変わらない。道具に依存するな、過剰投資するな、5年後に手元に残るかを考えろ。だいたいいつもそういう話をしている。
だから今日は逆を書く。1万円以下で、罪悪感なく散財していい道具の話だ。
その枠に、Ankerのモバイルバッテリーがちょうどはまる。値段はどちらも7,000円前後。普段このブログで諦めろと言っている金額の、十分の一以下だ。この金額なら、効くか効かないか確かめてみる、くらいの軽い気持ちで手を出していい。むしろ手を出すべきだ、と僕は思っている。
きっかけはbackspace.fmだった。ホストのドリキンさんが旅行中の回で、Ankerのコンセント一体型を「これ、旅に持っていく充電器の最適解だ」と何度も繰り返していた。あの人はプロの散財家として知られていて、高いものを高いと言わずに次々と買っていく人なのに、その人が7,000円クラスの充電器を、わざわざその価格帯で褒めている。安いから褒めているのではなくて、その設計そのものを評価している口ぶりだった。それが、僕には引っかかった。
僕は出張が多い。新幹線、ホテル、カフェ、会議室と、一日のうち四箇所か五箇所で充電器を抜き差しする生活を、年に二十回くらい繰り返している。だからモバイルバッテリーは生活必需品なのだけれど、ずっと言葉にできていなかったことがあった。ドリキンさんの言葉で、それがやっと言葉になった。
モバイルバッテリーというのは、充電するのを忘れる道具なのだ。
これに尽きる。容量がどれだけ大きくても、肝心のそいつ自身を充電し忘れたら、ただの重りになる。僕がずっと使っていたのはAnkerの定番、PowerCore 10000だった。2,990円で10,000mAh、最大12W。容量も価格も文句のつけようがない名機だ。でも僕はこいつで、新幹線で何度も残量ゼロをやらかした。道具が悪いのではない。前夜に充電し忘れる僕が悪い。でも、人間というのはそういう失敗を繰り返す生き物だ。
Fusionは、その失敗の構造そのものを消してくる。本体に折りたたみ式のコンセントプラグが内蔵されていて、壁に挿した瞬間、本体も充電される。ホテルでiPhoneを充電するために壁に挿す。その当たり前の行為が、そのまま翌日の出先用の電力を貯めている。充電器として使うことと、バッテリーを補充することが、同じひとつの動作になる。だから「明日のために充電しておかなきゃ」という意識的な手間が、運用から丸ごと消える。荷造りのときに「モバイルバッテリー、充電したっけ」と自問する、あの十秒が人生から消えるのだ。
容量は10,000mAh、出力は30WのPD。重さは300gくらい。USB-Cのケーブルも内蔵されている。スペックだけ見れば、PowerCore 10000とそう変わらない普通の数字だ。でも、コンセント一体型という一点で、運用から忘れるという失敗が消える。僕がカバンに入れる一台が、定番のPowerCoreからFusionに変わった理由は、それだけだ。出力でもなく、容量でもない。運用の簡潔さに6,000円を払った、という感覚に近い。
ドリキンさんが旅先で褒めていたのも、たぶんここだと思う。旅の途中で充電を忘れて困る、という体験を散々してきた人ほど、この「忘れようがない」設計の価値がわかる。
そして、Ankerはもうひとつ別の答えを2025年9月に出してきた。Anker Nano Power Bank 45Wだ。こちらはコンセントを持たない。代わりに本体から7cmから70cmまで伸びる巻取り式のUSB-Cケーブルが内蔵されている。容量は同じ10,000mAhだが、出力は45Wに上がっている。
この45Wという数字には、はっきりした意味がある。MacBook Airを動かしながら充電できる、最低ラインがここなのだ。30Wだと、MacBook Airを使いながら充電しようとしても出力が足りず、バッテリーは少しずつ減っていく。45Wあれば、フルに動かしながらでも緩やかに回復する実用域に入る。だからこれは、外でMacBookを開いて仕事をする人のための数字だ。
巻取り式のケーブルも、生活を地味に変える。カバンの中で絡まるUSB-Cケーブルが消える。「ケーブルどこに入れたっけ」とポケットを探る十秒が消える。カフェでカバンから取り出した瞬間、そのままiPhoneやMacBookに繋げる。Fusionが「充電を忘れる」という失敗を消すなら、こちらは「ケーブルを探す」という手間を消す。同じバッテリーでも、消してくれる摩擦の種類が違う。重さは230gで、Fusionより70g軽い。色も黒、白、ミントの三色から選べる。物を減らす方向の散財、と言ってもいい。
だから、どちらか一台を選ぶなら、自分がどの摩擦に困っているかで決まる。ホテル泊まりの出張が多くて、充電を忘れる失敗を繰り返していて、充電器とバッテリーを別々にカバンに入れるのが面倒で、ついでに変換プラグ一個で海外にも持ち出したい。そういう人にはFusionだ。一方、外でMacBook AirやPro 13インチを充電したくて、iPadも急速充電で回したくて、何よりケーブルを探す時間を人生から消したくて、230gという軽さが他の何よりも大事。そういう人にはNano 45Wになる。
正直なところ、iPhoneしか充電しない人には、どちらもやや過剰だ。iPhone 17や16のPD急速充電は20Wから27Wあたりで頭打ちになる。30Wも45Wも、スマホだけの用途では出力を使い切れない。それでも、Fusionのコンセント一体型という設計は、30Wの出力でもiPhoneユーザーに刺さると思う。これは出力を買う買い物ではなくて、運用の簡潔さに6,000円を払う買い物だからだ。充電を忘れて困った経験がある人なら、その6,000円の意味はすぐにわかるはずだ。
7,000円のモバイルバッテリーを散財と呼ぶのは、正直おおげさだ。でも、その7,000円で、充電を忘れる、ケーブルを探す、という毎日のように発生する小さな摩擦が消える。これは高いカメラや時計を買う散財とは、性質がまるで違う。毎日の認知負荷を、ほんの少しだけ軽くする買い物だ。十秒の苛立ちが一日に何度か消えて、それが一年続く。それくらいの価値はある、と僕は思っている。
ただし、最後に身の丈の話もしておきたい。家から出ない生活で、出張も旅行も年に数回という人には、どちらも要らない。すでにGaN充電器とPowerCore 10000を両方持っているなら、家での充電はそれで完結している。足りているものを、新しいものが出たという理由だけで買い替える必要はない。次の買い替えのタイミングは、今あるものが壊れたときか、長旅の直前で十分だ。そのとき、その時点での最新モデルを選べばいい。道具は、必要になってから買うのが、結局いちばん安い。
僕がFusionをカバンに入れてからのこの一年、新幹線で残量ゼロに絶望した日は一度もない。たった6,000円で、あの小さな自己嫌悪が生活から消えた。散財していい道具というのは、たぶんこういうもののことを言うのだと思う。
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価格・仕様は2026年4月時点のAnker Japan公式情報に基づく。実売価格は変動する。