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Smartphone 2026.04.20 Read 6 min

お金がなかった頃の自分に渡したい1台。Nothing Phone (3a) Pro

今日のテーマはNothing Phone (3a) Proです。

札幌の、駅から歩いて20分くらいのアパートに住んでいた。冬は窓の内側が凍る部屋で、深夜に携帯料金の明細を眺めていた時期がある。お小遣いは月に1万5千円だった。フリーターで、貯金はなくて、それでも家電量販店のスマホコーナーに用もなく立ち寄っては、ガラスケースの中の最新機種を、店員に声をかけられない距離からずっと見ていた。

あのころ、スマホは「奮発」という言葉がつく買い物だった。15万円のiPhoneは、毎月の料金に上乗せされる分割金が、明細の中で重たい数字として残り続ける。手にとって遊んでみたい気持ちはあった。けれど、その金額を背負う決断は、僕にはできなかった。

最近この端末をいじっていて、ふと、あのころの自分を思い出した。もし今の僕が、あの部屋の僕に1台だけ渡せるとしたら、たぶんこれを選ぶ。Nothing Phone (3a) Proという、7万円のスマホだ。

事実から並べる。2025年3月発売。米国価格は459ドル。日本では公式の販売網がほとんどなくて、並行輸入で手に入れると7万円前後になる。搭載チップはSnapdragon 7s Gen 3。これはフラッグシップではない。準ミドルと呼ばれる、価格に対して堅実な、けれど尖ってはいないクラスのチップだ。

それなのに、背面には50MPのペリスコープ望遠レンズが載っている。3倍の光学ズーム。2026年の今でも、7万円という価格帯のAndroidスマホで、光学ズームのペリスコープを積んでいる端末は、僕の知る限りこれ以外に見当たらない。

ペリスコープというのは、レンズを縦に立てるのではなく、横に寝かせて本体の中に収める構造のことだ。鏡で光を折り曲げて、薄い筐体の中に長い焦点距離を押し込む。普段はGalaxy S25 Ultraやら、12万円も20万円もするハイエンドにしか載らない機構だ。それを459ドルの端末が積んできた。価格破壊という言葉を使うのは安易だけれど、これに関してはそう言いたくなる。

何が変わるのか、という話を具体的にしたい。子供の運動会の、向こうのトラックを走る小さな背中。ライブ会場の、ステージまでの絶望的な距離。空港の展望デッキから見る、滑走路の機体。カフェで向かいに座った相手が、ふと見せた表情。デジタルズームだと一気に画質が溶ける距離に、この端末は3倍の光学で踏み込める。60倍まで伸ばせると謳ってはいるが、現実に使えるのは15倍くらいまでだと思っておくのが正直なところだ。

ただ、ここで嘘をつくとこのブログの意味がなくなるので、欠点も同じ重さで書く。

海外のレビューがそろって指摘しているのは、カメラアプリの動作が重いという点だ。シャッターを押してから撮影が終わるまでの、わずかなラグ。HDR処理のばらつき。Pixelの、雑に構えてボタンを押せばとりあえず記録写真になる、あの完成度には届いていない。これは撮る楽しみがある端末であって、撮れば勝手に上手く写る端末ではない。スマホを記録装置として静かに使いたい人には、正直Pixelのほうが快適だ。この端末を選ぶ意味は、カメラを道具として遊ぶことに、自分が価値を置けるかどうかにかかっている。

摩擦は他にもある。Snapdragon 7s Gen 3は、長時間の撮影やゲームを続けると、背面がはっきり熱くなる。夏の野外で20分も連続撮影すると、熱で画面の明るさが勝手に落ちたという報告が海外のフォーラムに複数ある。フラッグシップのチップとは、ここで明確に差が出る。

並行輸入で買う以上、Nothing OSのアップデートが海外版から遅れて届くことがある、というのも頭に入れておきたい。新しいAI機能を早く触りたい人にとって、数週間から数ヶ月の待ち時間は地味に苛立つはずだ。

防水はIP68ではなくIP64だ。カフェのテーブルで水滴を落とした程度でも、充電ポートのあたりに入り込めばトラブルの元になりうる。7万円の並行輸入機に、Apple Storeのような即日修理網は期待できない。ケースをつけて、水の近くに置かない。その習慣がセットになる端末だ。

そのうえで、7万円の使い道として、これが正しいのかを考える。

同じ7万円前後で買えるスマホには、Pixel 9aがある。日本だと8万円弱。望遠レンズはないけれど、Googleの画像処理が補ってくれて、写真の平均点が高い。OSのサポートは7年と業界最長で、FeliCaも使える。迷ったらこれ、という堅実な1台だ。電車に毎日乗って、コンビニでPayを使う生活なら、僕はこっちを勧める。

iPhone 17eという選択肢もある。9万9,800円から。AppleのA19チップを積んでいて、性能に妥協がない。Nothingとの差額は3万円。その3万円で、iOSという慣れた世界と、FeliCaと、修理に駆け込める安心を買う、という判断になる。それはそれで筋が通っている。

つまり問いが違えば、答えが違う。安全な1台が欲しいならPixel 9a。iPhoneの世界に入りたいならiPhone 17e。そして、遊べる1台が欲しいなら、Nothing Phone (3a) Proになる。

もうひとつ迷うとすれば、姉妹機のNothing Phone (3)だ。こちらは12万4千円。差額はおよそ5万4千円ある。その5万4千円で、チップが一段上がってゲームに強くなり、背面のLEDが時計やアニメーションを表示する凝った装備になり、防水がIP68になり、ワイヤレス充電がつき、超広角が50MPに上がり、OSサポートが7年に伸びる。

ただ、肝心の望遠レンズはほぼ同じ50MPのペリスコープで、メインカメラも同じ50MP、透明背面のデザインもNothing OSの世界観も同じだ。カメラとデザインの核は、安いほうにもちゃんと残っている。

ここで、また札幌の部屋の自分が顔を出す。あのころの僕にとって、5万4千円は、スマホ料金の3ヶ月分くらいの重さだった。その金額を、背面のLEDアニメーションに払う決断は、たぶんできなかった。だから僕は、安いほうを選ぶと思う。7万円で望遠と透明背面とNothing OSが手に入るなら、それで十分に遊べる。

モノは、長く大事に使えるものがいい。身の丈に合っていて、なおかつちゃんと心が動くものがいい。このブログでずっと言っていることだ。その物差しで測ると、この端末は、ある特定の人にだけきれいに刺さる。

メインのスマホは別にあって、セカンドとしてカメラで遊べる1台が欲しい人。SIMフリーで使う前提で、7万円の枠に収めたい人。FeliCaがなくても困らない生活をしている人。この条件がそろうなら、いま現在、これより面白い7万円の使い道は、なかなか思いつかない。透明な背面を見るたびに、他のスマホとは違う何かを持っている感覚がある。毎日の散歩が、少しだけ撮影に変わる。

逆に、最新のゲームを本気でやりたい人や、4K動画をがっつり編集したい人は、急がないほうがいい。7s Gen 3は日常では困らないけれど、重い負荷で頭打ちになる。それなら姉妹機のPhone (3)まで予算を上げるか、もっと上のクラスを待ったほうが、後で後悔しない。

そして、毎日Suicaで改札を通って、コンビニやカフェでPayを使う人。この人には、はっきり、買わないほうがいいと言う。この端末はFeliCaに対応していない。改札の前でもたつく、その小さな摩擦が365日積み重なる。1万円足せばFeliCaの使えるPixel 9aに届くのだから、毎日使うメインのスマホとしては、そちらのほうが幸せになれる。7万円の魅力より、毎日の摩擦のなさを優先すべき場面というのが、たしかにある。

最後に、もう一度あの部屋に戻る。窓が凍る札幌のアパートで、明細を眺めて、ガラスケースの中のスマホを遠くから見ていた自分。スマホに15万円を出す決断はできなかったけれど、スマホで遊んでみたい気持ちだけは、ずっとあった。

そういう人間に、この7万円の端末は、ちょうど届く。背伸びせずに手が届いて、それでもちゃんと、手の中で何かが楽しい。あのころの自分に1台だけ渡せるなら、僕はたぶん、これを選ぶ。

(2026年6月時点。価格・仕様はNothing公式・Google公式・Apple公式の公開情報に基づく。Nothing Phone (3a) Proの日本販売は並行輸入が中心で、実売価格は時期・為替・販売チャネルで変わる。)