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Camera 2026.04.19 Read 6 min

Vlogを3ヶ月でやめた僕が、Canon PowerShot V1を見る

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今日のテーマはCanon PowerShot V1です。

2020年の冬、まだ会社勤めをしていた頃、僕はボーナスでSony RX100M7を買った。¥138,000。レジで「これでVlogを始めるんだ」と本気で思っていた。三脚を買い、外部マイクを買い、SDカードまで一番速いやつを選んだ。その日の僕は、もう動画クリエイターのつもりだった。

それから3ヶ月で、僕は投稿を止めた。

撮るのは楽しかった。問題はそのあとだ。素材を取り込んで、いらないところを切って、テロップを置いて、音を整えて。撮影が10分なら編集は3時間かかった。撮るより編集が10倍しんどい、というのが3ヶ月で出した僕の結論だった。RX100M7は今も戸棚の奥で埃を被っている。外部マイクは一度も箱から出さなかった。

だから、¥167,200を出してVlog特化のコンデジを買おうとしている人に、僕はまず一呼吸置いてほしいと思う。買うなと言いたいわけではない。ただ、あの冬の僕みたいに、機材を揃えた瞬間に満足してしまう人がいることを知っているからだ。

PowerShot V1は、キヤノンが2025年4月に出したVlog特化のコンデジだ。発売から1年が経って、市場の反応もだいぶ見えてきた。2026年6月の今なら、この機種を落ち着いて判断できる。

まず素直に書くと、V1は変な立ち位置にいる。一番の特徴はセンサーで、1.4型という見慣れないサイズが載っている。コンデジでよく使われる1.0型、つまり1インチより一回り大きい。かといってミラーレスのAPS-Cには届かない。その中間に座った、というのがV1のセンサーだ。1.0型に対してどれくらい面積が広いのか、具体的な倍率を出したいところだけれど、公式の寸法から正確に計算できる数字が手元になかったので、ここは断定しないでおく。確かなのは「1インチより一回り大きい中間サイズ」だということだ。

この一回りが効くのは、暗いところだ。室内、夕方、窓際。光が足りない場所でセンサーが大きいと、映像のザラつきが減る。だから「1.0型のコンデジを使っていて、もう少しだけ暗所がきれいだったらと感じていた人」には、この差が地味に効いてくる。逆に言えば、本気でボケを作りたい、暗いところでも色をしっかり残したい、というレベルを求める人は、1.4型ではなくAPS-Cのほうがいい。同じソニーで言えばZV-E10 IIがそれにあたる。1.4型は1.0型の物足りなさを埋めるけれど、APS-Cには届かない。その中途半端さを余裕と見るか、足りないと見るかで、評価が分かれる機種だ。

センサーよりも、僕がV1で面白いと思ったのは冷却ファンだ。コンデジに冷却ファンを内蔵する、という発想自体がこれまでなかった。何が嬉しいのかというと、長く回しても熱で止まらない。普通のコンデジで4Kを長時間撮っていると、本体が熱を持って勝手に録画が止まることがある。イベントを密着で撮っている最中にこれをやられると、もう撮り直しはきかない。V1はファンで熱を逃がすことで、4Kの長時間・連続録画ができる。これができるコンデジは、2026年6月時点で現状V1だけだ。ここはV1の唯一にして最大の強みで、ここに価値を感じる人にはまっすぐ刺さる。

ただ、正直に書いておかないといけないことがいくつかある。

まず、4K 60pにはクロップが入る。通常の4Kなら広い画角で撮れるのだけれど、なめらかな60pに切り替えると、センサーの真ん中あたりだけを使って撮る形になる。約1.4倍ほど画角が狭くなって、引きの画が撮りづらくなる。「4K 60p連続録画」という響きだけで判断すると、ここで肩透かしを食らう。長く回せるのは本当だが、60pは画角が狭くなる、と覚えておいたほうがいい。

もうひとつ、ファンの音だ。キヤノンは静音設計だと言っているし、実際うるさい部類ではない。でも完全な無音ではない。これが問題になる場所がある。たとえばカフェ、図書館、美術館。静まり返った空間でVlogを撮ると、自分の機材から出るわずかなファンの音が、意外と気になる。

ここは僕の昔の話に絡む。僕はスターバックスで4年半バリスタをしていて、辞めた今でもカフェにいる時間が人より長い。だからカフェで撮ることを想像すると、条件がいくつか浮かぶ。店内はだいたい薄暗いから、センサーが大きいV1は悪くない。一方で、まわりのお客さんに迷惑をかけたくないから、できれば静かに撮りたい。この「静かに撮りたい」という一点で、ファンの音が引っかかってくる。V1の強みである冷却ファンが、静かな場所では弱点に変わる。皮肉な話だ。カフェや静かな場所で撮るのがメインの人は、買う前に店頭で実機を触って、自分の耳でファンの音を確かめたほうがいい。

そして冷却ファンの代償は、重さにも出ている。V1はバッテリーとカードを入れて約426g。比較対象のSony ZV-1 IIが約292gだから、134g重い。134gと聞くと小さく感じるけれど、これを腕を伸ばして自撮りの構図で持ち続けると、地味に効いてくる。長く回すほど、軽さは正義だ。

値段の話もしておく。V1はキタムラの実売で¥167,200。ZV-1 IIが約¥116,000だから、差は約5万円ある。そしてさっき名前を出したZV-E10 IIは、レンズキットで約¥168,000。つまりV1とほぼ同じ値段で、センサーはAPS-Cでひとまわり上、レンズも交換できる。スペックだけ並べれば上位互換に見える。ただしZV-E10 IIには冷却ファンがないから熱停止のリスクは残るし、レンズを選んで交換して持ち運ぶ手間も増える。気軽にぱっと撮るという意味では、レンズ一本で完結するV1のほうが身軽だ。どちらが正解という話ではなくて、何を優先するかの話だ。

ここまで書いたうえで、僕の振り分けを正直に書く。

V1を買っていいと思うのは、長回しの4K配信やイベント撮影を本気でやる人だ。熱で録画が止まる恐怖から解放されたい、という動機がはっきりしている人。これはV1にしか払えない安心料で、¥167,200は保険として高くない。それから、すでにCanon EOS Rシリーズを使っていて、色味を揃えたいという人。キヤノンの色に慣れた目には、V1の映像はすっと馴染む。サブ機としてのブランド統一は、地味だが効く。

少し待ったほうがいいのは、ZV-E10 IIと迷っている人だ。ほぼ同じ値段で性格がまるで違う二台なので、これはスペック表をいくら眺めても決まらない。両方を量販店で実際に触って、手に持った感触とファンの有無を確かめてから決めたほうがいい。キタムラの中古相場も数ヶ月で動くし、決算セールの時期を待てば条件もよくなる。焦って決める局面ではない。

そして、たぶん一番多い層に正直に書く。家族や旅行、日常のVlogがメインの人は、V1を買わなくていい。1.4型センサーの差を日常の記録で本当に使い切れる人は、ほとんどいない。4Kの60p連続録画も、日常では出番がない。それより先に、まずスマホで撮り続けてみてほしい。撮って、編集して、上げて、それでも続けられて、再生数が見えてきてから、本当に必要な機材を選ぶ。それが順序だと思う。あの冬の僕は、この順序を逆にやって、戸棚に¥138,000を埋めた。軽さ優先で日常を撮りたいだけなら、DJIのDJI Osmo Pocket 4のような小さい一台のほうが、たぶん幸せになれる。

V1はよくできたコンデジだ。冷却ファンで長く回せるという一点で、ほかにない居場所を作っている。すごい機械だと思う。ただ、すごさと、自分がそれを使い切れるかは別の話だ。60pではクロップが入り、静かな場所ではファンが鳴り、134g重い。その代償を払ってでも長回しの安心が欲しい人にとっては、最高の一台になる。そうでない人にとっては、たぶん戸棚の奥で次に埃を被るのは、この¥167,200だ。

僕の戸棚には、まだRX100M7がいる。たまに掃除のときに手に取って、少しだけ電源を入れて、また戻す。あの冬に揃えた三脚も、未開封のマイクも、まだそこにある。機材は買った瞬間がいちばん輝いて見える。その輝きで何かを始めたつもりになる。本当に続くかどうかは、買ったあとの自分にしかわからない。だから僕は、買う前にもう一呼吸だけ、自分に時間をあげてほしいと思っている。

Canon PowerShot V1をカメラのキタムラで見る

価格・スペックは2026年6月時点のもの。キタムラの実売価格は変動する。